『女に 谷川俊太郎詩集』谷川俊太郎/著 佐野洋子/絵 マガジンハウス

白い魂



出会うはずのない場所で3回会い、「これは運命だ」とおもって結婚したお二人。
そして谷川氏のこの本の朗読会では佐野氏は恥ずかしくて退出してしまったそうです。


1991年出版時は老人でもこんなエロいのかあーー!考えられない…と赤面した制服の私も、今は恍惚エロスより、違う詩に心を動かされるようになり…つつあるかも。
愛する相手の生後、二人の出会い、他界するまでの詩集。

素足


赤いスカートをからげて夏の夕方
小さな流れを渡ったのを知っている
そのときのひなたくさいあなたをみたかった
と思う私の気持ちは
取り返しのつかない悔いのようだ

初めての


あなたの初めてのウィスキー
初めての接吻 初めての男
初めての異国 初めての本物のボッシュ
しかもなおいつか私は初めての者として
あなたの前に立つだろう
その部屋の暗がりに 生まれたままの裸で

……


砂に血を吸うにまかせ
死んでゆく兵士達がいて
ここでこうして私たちは抱き合う
たとえ今めくるめく光に灼かれ
一瞬にして白骨になろうとも悔いはない
正義からこんなに遠く私たちは愛しあう


汗びっしょりになって斜面を上った
草の匂いに息がつまった
そこにその無骨な岩はあった
私たちは岩に腰かけて海を見た
やがて私たちは岩を冠に愛しあうだろう
土のからだで 泥の目で 水の舌で