『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』ランス・アームストロング 安次嶺佳子/訳 講談社

先ず「マイヨジョーヌ」はツール・ド・フランス優勝者に与えられる黄色の
ジャージです。女性名詞かもしれませんが、女性の名前ではありません。
原題は『It's Not About the Bike』ですが、ツール・ド・フランスを6連覇!
ツール・ド・フランスは約3週間でフランス一周、約4000km自転車で走るレース。しかもアルプスやピレネーといった山脈をも走る世界一過酷なレース。漫画の『シャカリキ!』読めば、どんなに過酷かよおおおおおっく分かる)6連覇している人にとっては自転車=マイヨジョーヌでしょうし、このタイトルの方は書店で見て記憶に残っていました。


13歳でトライアスロン全米ジュニア大会で一位になった時。

耐久レースで一流の選手になるのは誰もが感じる気後れを飲み込み、不平を言わずに耐え忍ぶ能力が不可欠だ。要は歯を食いしばって耐えればいいことで、はたからどう見えようが、最後まで残ればいいのである。そして僕はそういう競技であれば勝てるのがわかってきた。どんな競技だろうと問題ではない。ただ正攻法で戦う、長距離レースであれば、僕は他を負かすことができた。
耐えることがすべてであるなら、僕にはその才能があった。

13歳で、自らトライアスロンに飛び込み、「耐えることがすべてであるなら、僕にはその才能があった」と言える少年の背景もしっかり描かれています。それがあるから、この本を読まされてしまうのです。


モトローラ・チームでチームメイトのファビオが下りで落車し、他界した時のこと。

ツール・ド・フランスが単なるレースではなく、試練であり、肉体を試し、精神を試し、道徳的にも人間を試すこと。近道はなく、精神と肉体と品性を確立するには自転車に乗り続けるしかないこと。


25歳で襲った睾丸癌。癌はすでに肺と脳にも転移しており、生存率は20%以下。
そして、いきなり精子銀行へ行かなくてはならず、しかもチャンスは一度きり。

これだけでも私なら打のめされやられてしまうのに、アームストロングは、自分に最適な医師をあらゆるネットワークを探し、見つけ、治療にも全て関っていきます。



自転車には苦しむ為に乗っているランスが手術後に語った言葉。

「僕は、喜んでいるんだ。だって僕はこういうのが好きなんだ。分が悪いのが好きなんだよ。いつもそうだったし、それ以外を知らないんだ。本当に頭に来るけど、でもこれだって乗り越えなきゃならないなら、これこそ僕の望むやり方なんだよ」

この後、肺活量を量りにきた看護婦に
「ボールが目盛り3つ位しか上がらなくても気にしないで」と言われ、
「冗談じゃない、僕はこれで生活しているんだよ。早くそいつを寄越せよ」
と管をひったくりボールをてっぺんまで一気に上げ、
「そんなもの、二度と持ってくるなよ、俺の肺に問題あるわけないだろう」。


一番笑いました。肺にも転移してたっつーの!と看護婦が毒づいたかは書かれてませんが、ランスの勢い、生意気ぶりと意地(プライド)、忍耐力の記述は無論のこと、スポンサーの素晴らしい行動も記されています。


オークレーのCEOマイク・パーネルが、「保険に加入する時点で癌が発病しているランスの癌治療保障を有効に」(どんなにムチャか伝わりますよね?)するため、「ランスを入れないなら、全社の保険を他に移す」と告げ、保険会社がランスを加入させてくれたこと。

……。
保険会社がちょっと気の毒ですが、こういうのは後の美談になるので、結果的には良い功績を残したということですよね。


スポンサーでも逆にコフィディスのようにランスの契約打ちきりにして(わざわざフランスに代理人を呼びつけて!)、後に彼から竹箆返しをくらう様子も書かれてます。


奥様もまた、器の大きな美人で、ランスをサポートしていく様子が並み大抵ではないです。ホントにこの男の奥さんやるのは「女」だけじゃなく様々なオプションがないと絶対ダメ。来年、奥様をツールで観たら、ランスより奥様にエールを送ってしまうだろうという位です。


ここで紹介したエピソードは前半部分のものが多いので、ランスが成長するシーンは読んでお愉しみ下さい。
もっと大変で笑えて爽快なシーンが沢山あります。


デスノネタではなく)
How do you like them apples?