『愛のひだりがわ』

筒井康隆の『七瀬ふたたび』(なんと改訂版で1978年!)が漫画化されて『NANASE』(山崎 さやかは『マイナス』から好き)となっていたので懐かしいと思って読んだのですが、時代背景も現代のものにしっかりなっていたので驚きました。絵も良かったです。七瀬が本当にリアルな美人だし、”崇拝者”により処刑のシーンは凍るかという位背筋が寒くなりました。「絵」で、です。

もしかして、漫画化する際に、脚色があったのかと思い、原作も読みなおしても性風俗からして古さを殆ど感じませんでした。筆力のある作家ですよね。本当に。いえ、そう表現するのもおこがましいですが、人間そのものをものおじせず、書いてくれる。谷崎潤一郎がミステリも書けるという位に社会も出版社も尊重してくれたら良いのに。(もう有害図書とか差別表現とか…、そんな「表現」ではなく、その根だろ、ラディカルなもんだろよ、とあの事件を思い出して哀しくなりました。大作家の文章が読めなかった期間)

『ベストセラー本ゲーム化会議』を読んだときにゲーム化題材として『世界がもし100人の村だったら』『模倣犯』『新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論2』と並ぶ中『愛のひだりがわ』もあったんです。そして「おお、よまねば」と早速、取り寄せて読みました。読んで…読んで…ラスト付近に、愛がある人に伝えた言葉に号泣…。本当に子供を馬鹿にしないジュヴナイルがきちんと書ける作家ですよね。そうそう、ジュヴナイルという名称は筒井氏で知ったのを覚えています。中学生時代、社会科の授業中に新潮文庫の作品を貪るように読んでいてテストでは満点取ってたのに、成績は5段階の3だった記憶も、今、一緒に蘇りました。さぞかし態度がムカついたんでしょうね。勿論、隠れて読んでたし、質問には答えていたけど(笑)いやはや小沢かっ?つー嫌みなエピソードですね〜。ホント。


著者が「現実の鏡として虚構が存在した時代は終わっている」と述べ、「現実が模倣し得ぬ虚構」としての作品とどこかに書いてありましたが、結局、中学生時代、一番必要な社会科を学んでいたってことではありませんか?(微笑)。


ミステリーランドでジュヴナイルシリーズが発刊されていますが(『くらのかみ』とか『透明人間の納屋』とか)、筒井氏のこの1冊には及びませんでした。もっとうまく出版側に売って欲しいものですが、岩波書店だもんにい。