『彼方なる歌に耳を澄ませよ』Crest booksアリステア・マクラウド/著 中野恵津子 新潮社

1936年生まれのマクラウドは寡作な作家で、36年間に16編の短篇とひとつの長編を書いているのみ。つい最近までは本国のカナダですら一般的には無名に近かったが、唯一の長編小説である本書がベストセラーとなり、ようやく知られるようになった。

原題は”No Great Mischief”
「たいした損失ではない」


全く知らない作者でしたが、数頁読んだだけで、なんてことはないストーリーやキャラクタの行動なのに、引き込まれて、おかしい話ではないのに笑っちゃえるんですね。
おかしみがあるというか。
アメリカ文学で文章読んでて笑顔になったことはヴォネガットを読んだ後は全くなかったので、不思議と、読まされました。


短編の名手だからか各章が連作短編小説のような完成度の高い作品です.
著者であるマクラウド自身がカナダ東に位置するケープ・ブレトンで育っているそうで、描かれる人々の生活は潮や鉄、針葉樹の香りが漂ってくるかのように写実的。
鯨のエピソードや氷の上の物語は特に。
一緒に目撃できます。
彼のスコットランドハイランダー(スコット・ランド高地人)における深い造詣も目を見張るものがあります。失われつつある血と生活。
でも悲壮な物語じゃないのです、全く。
そういう話ではないのです。


小説の記憶が残ったというより、大切な追憶が残る感じです。
ポール・ギャリコの「スノー・グース」に似てるかもしれないと聞いたのでこれも読んでみようかなと。
久し振りに、よくあることを書いてるのに、面白く読ませてくれる小説。