『工学部・水柿助教授の逡巡』森博嗣 幻冬舎


国立大学理系助教授&小説家の奥様、スバル…いえ須磨子さんに焦点が当たってますが、奥様…ほんっとーに偉い!ええもう萌絵のモデルは須磨子さんですよね!
耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだの生活が伝わってきます。
ピンクハウスでもゴルチエのバッグでも「この棚からここまで」買いしたって許されますよ。


以前のエッセイで奥様の長男出産時に満面の笑みでのねぎらいの言葉でなく「みてみて、この模型完成したんだ」と見せてくれたというエピソードは紛れもなく真実だったのですね。さすが…森…いや水柿助教授。


ミステリの謎には「物理的な謎と心理的な謎」があり、「物理的解決と心理的解決」があるので4パターン出来る。そんな旅行中の夫婦の会話から、妻がペットのように瞳を輝かすので小説を書き、不評だったので専門家の意見を聞こうと講談社に投稿し、4作目の『すべてがFになる』が素晴らしかったのでメフィスト賞まで誕生してしまったという次第。


「ミステリは一般にトリックがその中心にある。骨格というよりは芯という感じ。その周りにいろいろ貼付け、塗り付けて、造形する」
「トリックが複雑になると解明も煩雑になり理屈っぽいと不評を」かう。
ので2作目は丸い芯にしてみたと。


奥様の感想で「ちょっと、理屈っぽくない?うーん、特にね、小説の筋に関係ない部分で、なんか日頃の鬱憤を晴らしているかなって」
「なるべくそれを出さないで、むしろ、俗物的にというか、単純化して、世間によくありそうな雰囲気にして、さらりと書いてみたつもりだけど」
「これで、そうなの……」
この文章でなんとなく、日常の助教授が、分かりました。あれで、か。


日本に本格マニアは数千人しか存在しない。
編集者は「はっきりいって、文句を言ってくる読者は、どんなものでも本を買ってくれるわけだから、別に彼らの要望をきく必要なんてありませんよ」。


235頁では読者への挑戦状はおかしい、と。勝ち負けとして捉えるから矛盾が出来る訳で、作者と一緒に楽しもうという姿勢で臨むべき。
だから読者への挑戦状ではなく。招待状とするのが正しい。という新解釈。


250頁では夫婦喧嘩してます。
一読したときは笑ってましたけど、再読すると、友人N島姉さんが「あんな細かい男と結婚する女なんて居る訳ないわ!」というN君の言動と水柿くん、瓜二つなんでした。
でもN君はコーヒーにミルクと間違えてヨーグルトを入れたりしないとおもう。
しかもそれの逆ギレなんて…。


大丈夫、この世の中には、自分の相手となる異性は必ず存在するのです。森…いえ、水柿君と須磨子さんのように。
そうでなければ、今、この心臓が動いている意味も地球が廻ってる甲斐もないではないですか!
だからN君も、この本でも読んで…。


それしか言えません。
本当に須磨子さんが報われてよかったです。
水柿君は家計に関係なく模型購入してたみたいだしねー。