『神も仏もありませぬ』佐野洋子筑摩書房


不機嫌な64歳。

「目が覚めたら初めて会う人がカーン。悲しいカーンが欲しいのよ」
「でもあの人、すごい人気でカーンの歌まで出来ていて日本語のバージョンもあるんだよ」
理由はわかんないけど、むっとした。

「何も知らなかった」
孔ちゃんの死が私にショックを与えたのは、今まで全く感じた事のないさびしさだった。父が死んだ時とも、兄が死んだ時ともちがう。私達が老いて。誰にも死が近づいている。これから生き続けるということは、自分の周りの人達がこんな風にはがれ続けることなのだ。老いとはそういうさびしさなのだ。
一ヶ月前床をたたいて泣いたのに、今、私はテレビの馬鹿番組を見て大声で笑っている。生きているってことは残酷だなあ、と思いながら笑い続けている。

「出来ます」
日本中死ぬまで現役、現役とマスゲームやっている様な気がする。いきいき老後とか、はつらつ熟年とか印刷されているものを見ると私はむかつくんじゃ。
こんな年になってさえ、何で、競争ラインに参加せにゃならん。わしら疲れているのよ。


以前谷川俊太郎の奥さんでしたよね。ベストカップルだなあ!ととても嬉しかったのです。他にも荒俣宏さんと杉浦日向子さんとか。鈴木慶一氏と鈴木さえ子氏とか。きっと色々あったんでしょうけど…。

しんみりとしていながら飄々としてる佐野さんのエッセイ。
今までの文庫になってるいくつかの作品も大好きです。
武田百合子の凛とした呑気さとは違うのですがお二人とも名エッセイスト。