『愛の唄』桑原 茂夫2003/12 PARCO出版1300円

愛のよりこびの唄ばかりではなく、哀しみの唄も多く選ばれています。
西條 八十、蕗谷虹児(ふきやこうじ)、室生犀星など、「ポケットからちいさひ星をとりだして、相手の手にふりかけるような」(森茉莉)繊細な歌も集められています。
マイナな名作と、すきな部分だけ抜粋。

*『永遠』 アルチュール・ランボー堀口大學 訳)

*『あなたはだんだんきれいになる』高村 光太郎

年で洗はれたあなたのからだは
 無辺際を飛ぶ天の金属。

*『昨日いらつしつて下さい』 室生 犀星

*『めぐりあひ』 室生 犀星
いくらたくさん逢つても
気まづくわかれる日があつたら、
つまんないぢやないの。
お逢ひするのはいちどきりでいいのよ。
何十度お逢ひしても
人間のすることはみな同じだもの。
いちどきりでいいのよ。

*『自由』 ポール・エリュアール (安東 次男 訳)

(これは、大島弓子の名作のラストに使われていたので、どうしてもそのシーンと重なり涙が出てきてしまうのですが、詩だけでも美しいです)

ぼくの生徒の日のノートの上に
ぼくの学校机と樹々の上に
砂の上に  雪の上に
ぼくは書く  おまえの名を

読まれた全ての頁の上に
書かれてない  全ての頁の上に
石  血  紙  あるいは灰に
ぼくは書く  おまえの名を
(中略)

きらめく形象の上に
色彩のクローシュの上に
物理の真理の上に
ぼくは書く  おまえの名を
(中略)

とけあった肉体の上に 
友だちの額の上に
差し伸べられる手のそれぞれに
ぼくは書く  おまえの名を

欲望もない不在の上に
裸の孤独の上に
死の足どりの上に
ぼくは書く  おまえの名を

戻ってきた健康の上に
消え去った危険の上に
記憶のない希望の上に
ぼくは  おまえの  名を書く

そしてただ一つの語の力をかりて
ぼくはもう一度人生を始める
ぼくは生まれた  おまえを知るために
おまえに名づけるために、

自由(リベルテ)   と。 

*『モネルの書』よりモネルの言葉  マルセル・シュオブ  (大濱 甫 訳)

最後は、最強の愛の唄かもしれないピアフの『愛の讃歌』です。美輪様訳。