『私が語りはじめた彼は』 三浦しをん 新潮社


村上氏をめぐる人間のストーリー。ひとりひとりの体温が違うように文体も替わり、年齢も記憶も沸点も関り方も違うのをかなり落ち着いた筆致で描いている。
ダウ゛ィンチのプラチナ本。『愛すべき娘たち』と同じような価値があるという評価は正しい。


短編がいくつかあるのですが、どれ一つとっても、全く飽きない!
頁をめくってどうなっていくのか、何が表現されようとしてるのか、楽しくてまた裏切られない。
簡単なところで終わり、オチをもっていかないのが良いのですね。
また『愛妻物語』みたいにSEXだけに集約しないところもよい。


エッセイでは爆笑と疾走のしをんさまですが、この小説では一般的に受け入れやすい抽象的な文章で描かれてます。編集者が落涙したというのはどの短編か。


一番好きなのは『冷血』。江畑が登場しているから。江畑とか渋谷とかこういったキャラクタが好き。
(でも激しさは使い切るものじゃなくて、その人の属性のようなものなので、またきっかけがあれば表面に出てくるんです。それがちょっと、違うなとおもった点)



女たちが彼に求めているものは何か。


彼は女に求めているものは?




ネタバレ感想

彼が女に求めているものは、何もない。
きっと特定の女に求めているものがないから相手の女性が誰でも良いのだ。
静かな場所と提供される食事がほしかっただけだとしたら、女たちが彼に執着したのは求められた嬉しさからだけだったではないか。


だから結局、愛を求めるものは求める虚しさに気付くまで悪夢の輪廻から出られないし、計算せず与えるものだけが真に愛される(救われるともいえる)ことですね。


でも何も望まず、与えるって赤ちゃん以外には難しいのが人生。